教官のつぶやき+近況<研究、診療、教育、医局>
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すぐに役に立たない勉強(6) Commercially available 遺伝子検査
 この話しは、カテゴリから「すぐに役に立たない勉強」を選んでいただき、下の(1)から順番に読むと少しは分かりやすいかもしれません。
 SNSでゲームを提供する(株)ディーエヌエー(DeNA)が、その名前に由来してかどうかは知りませんが、MYCODEという名前の遺伝子(DNA)検査キットを売り出しました。Amazonで売っていますが、安い人間ドック程度のお値段で、各人の体質に関しての情報とそれに基づく健康アドバイスが手に入ります。317CLu1us.jpg
 検査方法は、アメリカで『つば吐きパーティー』などと報道されたこともありますが、米国のある会社がその人の由来を明らかにする遺伝子検査を広めるために、有名人などを集めてパーティーを開き、容器に唾を入れてもらう…という宣伝をしたことがあります。すなわち「唾液」に含まれる粘膜細胞などからDNAを抽出して検査をするわけです。他社は、綿棒で口腔内粘膜を擦過する方法のキットもあります。
 このDeNAなど複数の会社が販売している遺伝子検査で何を検査するのかをご存知でしょうか? 人の遺伝子は99.9%以上が同じであり、ある特異的な遺伝子欠損などを見つけにいくわけではありません。0.1%以下の差として存在するSNP(一塩基多型 スニップ)をGWASの研究を参考にして、体質の差として〜になり易い、〜になりにくい(かもしれない)を検出するための遺伝子検査です。20年前の研究では、血液を患者さんからいただき、その中の白血球からDNAを抽出して、ある一つのSNPのチェックするためにPCRをかけていましたが、今は約300程度のSNPを3万円程度でチェックできるようになっている….ということです。これをいくつか組み合わせることで「あなたは太りやすいので気をつけるように」という各人にとって有用かもしれない情報として提供できるというわけです。他社の太り易さの遺伝子検査では、β3アドレナリン受容体(β3AR)、ミトコンドリア内の遺伝子アンカップリングプロテイン遺伝子(UCP-1)、β2アドレナリン受容体(β2AR)などをチェックするようになっています。β3ARとUCP-1のあるSNPをもっていると1日の基礎代謝がそれぞれ約200Kcal、100Kcal少なくなりいわゆるリンゴ型や洋ナシ型肥満になり易いということが論文で報告されており、このSNPは日本人の3~4人に1人が持っているようです。さらにβ2ARのあるSNPを持っていると基礎代謝が約200Kcal高くなり、肥満になりにくいSNPということになります。これを組み合わせて、あなたは肥満になり易い(なりにくい)をチェックするということです。
 しかし、この個人差のSNPは、前にも紹介しましたように、そのほとんどがそれがあるとこういう病気や状態に約1.2倍なり易いというような小さな影響しかありません(GWASの論文では、この程度のリスクとなるものが多い)。それを何種類か組み合わせる(場合によってはかけ算する)ことで、上記の肥満になり易いというような判断につなげるわけです。でも、かけ算で使用できるというエビデンスはないと思います。
 見方によっては、血液型占いと差がないようにも思えますが、これがきっかけで健康を意識するようになり、健康的な生活を送るよう意識することが重要である…という意味なのかもしれません。個人的には、占いとは違うと思いますし、値段が下がればやってみるのも面白いと思っています(もう既に安いといえば安いので、少しそそられます)。
 でも、上海のある会社の商業用遺伝子検査では、その人の記憶力、注意力、理解力、美的感覚、聴覚・色覚の敏感性、リズム感などの能力判定に使用するキットが売り出されているようですが、例えば色覚敏感性の判定は、赤緑色覚異常の遺伝子のSNPをチェックして判定するようです。病気の遺伝子の変異が、才能の判定に使用される….という根拠のすり替えが堂々とされていることに気付きます。
 また、さらに気をつけないといけないことがあります。実は、これらの検査のために提出した遺伝子の情報は、将来その会社とさらに共同で研究を進める大学などに、今は特定できない将来の研究に使用される可能性があります。まあ、個人情報に敏感な方は慎重に。 ty

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すぐに役に立たない勉強(5) SNP
この話しは、カテゴリから「すぐに役に立たない勉強」を選んでいただき、下の(1)から順番に読むと少しは分かりやすいかもしれません。

 遺伝病というと、どのようなイメージを持っているでしょうか?生物で勉強したメンデルの遺伝の法則にのっとった遺伝病の理解は、そんなに困難ではありません。簡単に、設計図の異常とも言えるでしょうし、異常の設計図からは蛋白ができなかったり、異常蛋白ができて疾患になりやすい…それで説明可能です。 
 生活習慣病と呼ばれる糖尿病・本態性高血圧・かなりの脂質異常症、そして循環器内科の扱う虚血性心疾患は家族歴がおおいに関連することは分かっていますが、昔ながらの少なくとも単一もしくは少数のDNA設計図の異常では説明ができません。20年前くらいに一塩基多型single nucleotide polymorphism; SNP(スニップ)の研究がPCR(polymerase chain reaction; さすがにこれは説明しませんが)の普及によって容易にチェックできるようになり、さかんに研究されました。ただ、この時はある遺伝子に注目してのSNPの有無によって、例えばその遺伝子産物の量や機能が変わるので、この病気になりやすいかも….というような研究でした。数多くの論文が発表されたにも関わらず、私自身が興味を持てなかった(一つも記憶に残っていない)のは、one of themを必死で研究している印象を持ち、その研究手法自体(すなわちたった一つの遺伝子のSNPに最初から必死になっている研究姿勢)に疑問を持ったから….というような記憶があります。しかし、時代が変化して、今はGWAS(Genome-wide association study;全ゲノム相関解析)による疾患との関連を調査する研究によって、全ゲノムのSNPを網羅的に調査して、このSNPがこの疾患に関連して、あると(ないと)何倍くらい疾患になりやすい….というような研究スタイルに変化しています。論文としては、読んでも面白くない…すなわち大規模臨床研究のような結果提示(理由なんか知らんけど、こういう結果だったので、これをエビデンスとしてみんな尊重しろよ!という感じ)であり、高血圧の研究だと、この第何番染色体長腕(q)にあるrs(reference SNP)ナンバー何番のSNPがあると、収縮期血圧が1.5mmHg上がる…というような解析結果になります。そのマイナーアレル頻度は0.20です…とか書いてあり、そこの遺伝子もしくはその近傍の遺伝子にこんなのがあります….というような報告の表が書かれています。AとCの一塩基の多型で、Cがマイナーアレルとするとその頻度(minor allele frequency; MAF)が0.20(=20%)ということは、メジャーアレルAA(野生型)の頻度は0.80x0.80=0.64(64%)、ヘテロ型ACまたはCAが0.80x0.20 x 2=0.32(32%)、マイナーアレルがホモCCは020x0.20=0.04(4%)ということになります。そして、こういうSNPが、ダ〜といっぱい並んだ図が提示してある….という形態の論文になっています。 
 この結果は、すぐに診断法や治療への応用は困難であろうかとは思いますが、ここから新たな知見がでてくることは、想像にかたくないと考えます。しかし、まだまだ研究手法としても発展段階であることも事実で、そこが網羅的研究からのイノベーションがまだあまり起こせていない理由のような気もします。 ty


すぐに役に立たない勉強(4) microRNA
 この話しは、カテゴリから「すぐに役に立たない勉強」を選んでいただき、下の(1)から順番に読むと少しは分かりやすいかもしれません。

 血中のmicroRNAを癌の診断に利用して、癌の早期発見などに使用する試みが大きく発表され、ニュースで取り上げられていました。microRNAによる翻訳調節も、エピジェネティック遺伝子制御の一種とも言えます。
 microRNAとは21~24塩基の短いRNAで、対応するmRNAの3’UTR(実際の蛋白翻訳に関連しない3’側の非転写領域)に結合することで、蛋白の翻訳を阻害したり、mRNAの分解に関与します。当初、細胞内に存在する小さなRNAが多くあることは分かっていたようですが、転写のしそこないによる不良なRNAと考えられていました。これがヒトゲノム計画によって98%以上の蛋白をコードしない領域から作られていることがわかり、実は重要な役割を担っている事が解明されました。
 microRNAの特徴は、一つのmicroRNAが複数の遺伝子を標的にしていること。蛋白の翻訳抑制作用は不完全であること(この不完全さも重要な要素のようです)。そして、組織特異的に発現すること。上記の癌の診断に使用できるのは、3つ目の臓器特異性に注目したということです。癌に特異的に出現するmicroRNAが、漏れだして血中にでてきた分を、チェックすることで診断に利用しようというものです。おそらく、チップにして診断キットを作成すると比較的安価に提供可能になることでしょう。
 基礎実験の経験のある人なら、RNAというのは、どこにでもあるRNaseという分解酵素があるので、すぐに分解されることは常識として知っているはずです。なぜmicroRNAは安定なのでしょうか?血中に存在するmicroRNAは、微粒子内に存在し、HDL粒子や蛋白に結合することでRNaseから保護されている状態になるようです。循環器疾患のバイオマーカーとしても研究が進んでいますが、さらにmimicsやanti-microRNAにて治療も想定した研究もされています。個人的には、HDL粒子内に存在する…というところに何かが潜んでいるように思うのですが、誰か興味を持ちませんか?? どこかの臓器で産生されたmicroRNAが、血液を介してどこかの臓器の中に入って….というのはまさかないとは思いますが、誰かそういう研究をしているかもしれません。科学は知るほどに、色々なアイデア(時に単なる妄想)につながります。
 週末は、千里サイエンスセンターで開催された代謝・肥満に関連したシンポジウムに参加していました。本当に、他分野の先生の話しを聞くのは、楽しいものです。ミトコンドリア病(MERRFやMELAS)のマウスモデルの話しを聞いてびっくりしましたが、何と糖尿病の反対のphenotypeとなっていました。正直、しっかりとその理論を理解できませんでしたが、こういう予想しない結果がでている時こそ、そこに何か重要な真実がひそんでいるように感じます。「重力」を感知すること(しないこと)が予想もしないような疾患発症に関連している事実も、複数の疾患で証明されています。何か、動脈硬化や心不全で関連あるかも??とか、普通の循環器内科医では思わないでしょうね。是非、普通でない考え方をしてみましょう。 ty


すぐに役に立たない勉強(3)
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エピジェネティックスという言葉を聞いたことがあるでしょうか?
DNAの遺伝子塩基配列(設計図)によらない、遺伝子発現調節機構であり、生活習慣病の原因を探るときには、必須の考え方になりつつあります。
 第二次世界大戦のときに、ナチスがオランダに攻め入り、オランダのある地域に食べ物の輸送ができなくなりました。さらに、同じ時期の冬に寒波が来てそこが大飢饉になりました。多くの死者もでたのですが、飢えを凌いで生き延びた方(妊婦)の子供にある特徴がでたという研究結果が報告されました。饑餓のときに妊娠早期にあった胎児が無事に生まれて成人になってからの事を調べると、BMIが高く、冠動脈疾患の発症率が高いという結果が得られました(Dutch hunger winterと呼ばれます)。この事象に関して、遺伝子の設計図が饑餓によって変わるわけがないので、「饑餓のエネルギー不足という事実がエネルギーを溜め込むような遺伝子発現が優位になるようなエピゲノム変化を起こした」…ということで、設計図のDNAのみならず、その発現調節が疾患発症に多いに関連するということが証明されたわけです。ちなみに、このエピジェンティックスの変化は、同じ個体では細胞分裂をしても維持されます。
 このエピジェネティックな制御で、有名なのは2つあります。まずはDNAのメチル化と、ヒストン蛋白のアセチル化とメチル化を覚えておけば良いと思います。DNAのメチル化はDNAのATGCのうち、C(シトシン)とA(アデニン)にメチル基(-CH3)が付加された状態です。生体では、CGが繰り返しならんだメチル化制御領域のCがメチル化され、遺伝子発現(転写)が抑制される傾向になります。
 ヒストン蛋白というのは、2重らせん遺伝子DNAを糸巻きのように巻くように存在させるための蛋白で、これによって巻かれた細い糸が再度太い糸のようにコイル状に巻きこまれて存在しクロマチンと呼ばれます。逆に、遺伝子が読みとられてmRNAができるときには、このクロマチン(DNAとヒストンのからみつき)構造が揺んで転写されるので、緩みにくければ転写しにくい…ということになります。このヒストンがメチル化していると緩みにくく(転写されにくく)、アセチル化していると緩みやすい(転写促進)と一般的に考えれば良いようです。
 エピジェネティックスの制御は、上記のメチル化やアセチル化によって、その転写、すなわちその遺伝子を使用して蛋白をどれくらい作るかを制御しているということです。同じ設計図を持っていたとしても、ある人はそれをたくさん使用して、ある人はそんなに利用しない…という差で、病気になりやすかったりなりにくかったりするということです。
 現在では、主に癌の治療薬としてこのエピジェネティックスに介入するような薬剤がありますが、我々の扱う生活習慣病にも応用されるようになるのでしょうか? ty


すぐに役に立たない勉強(2)
 医学ばかりで、科学の勉強をあまりできていない人にも、少しでも興味を持っていただくために、臨床でも役立つであろう科学の基礎知識をできる範囲で分かり安く解説してみようかと思います。できれば、これで興味を持つきっかけになって、さらに深く勉強してもらえればと思います。

 生物で(昔に)習った「セントラルドグマ」は知っていますね。ヒトの遺伝子(ゲノム)は、30億塩基対で10万個以上あり、転写によりmRNAが作られ、さらに翻訳されて蛋白が作られる…と考えられていましたし、このように勉強しました。確かにこの理論は普遍であるわけですが、「ヒトゲノム計画」によって、なんとそのような蛋白をコードする部分はゲノム(DNAの塩基配列…すなわち設計図)の1.5%しかない事が分かりました。あとの98.5%はプロモーターやイントロンなどの蛋白をコードしない部分であることが判明し、どういうこと?となったわけです。ヒトゲノム計画の後の研究で、転写されたほとんどのRNAが実は蛋白に翻訳されないことが分かってきました。この部分をnon-coding RNAと言います。
 生物の講義などで、RNAはmessenger RNA(mRNA)とtransfer RNA(tRNA)とribosomal RNA(rRNA)の3つあります….と勉強したと思いますが、今ではこれにnon-coding RNAが加わり、その中にmicro RNA(miRNA)というのも入ります(このmiRNAは最近の論文でmiR-133とか数字が入ってよくでてきますが、また別の機会に紹介します)。
 そして、10万個あると想定されていた遺伝子でしたが、実際にmRNAに転写されるのは2万個しかないということが分かってきました(線虫でも1万5〜6千ありますが、ヒトと線虫でもそれくらいの差しかありません しかし、線虫の遺伝子は1億塩基対しかありません…どういうこと?)。
 現状では、non-coding RNAが8万個以上あると想定されており、このnoncoding RNAが転写を調節する働きをもち、ヒトの高機能性や複雑性を規定していることが分かってきました。すなわち、ヒトが線虫と異なる、複雑な脳機能をもち、それを駆使して色々なことができるのは、遺伝子からできる蛋白の種類(数)ではなくて、その発現調節で量や時間や場所を規定することにある(設計図はそんなに複雑でなくても、その使用方法が重要)と考えられるわけです。
 このnoncoding RNAの働きを含む遺伝子発現調節に関わる学問領域を「エピゲノム」「エピジェネティックス」と呼び、ゲノムによらない遺伝子発現調節機構の解明が、biologyの中での大きな研究テーマとなっています。我々が携わる医学においても疾患(特に生活習慣病など)の発症に大きく関わることが分かりつつありますし、抗がん剤などの薬剤作用機序の理解のためにも避けて通れません。さらに、上で紹介したmicro RNAも、治療薬としての可能性もでてきています。…ということで、やっぱり医学の中でも、理解しておく必要はありそうです。続きは、またの機会に。 ty